種屋の仕事
昔からよく言われることが「種屋さんてあるんだ〜、そんな職業があるんだ〜」という声. . . . . . . . . . 。
気になり調べて見ると、江戸の頃より京都を中心に都市圏にはリーダー的な農家が自家採種して副業的に扱っていた。それが専業化されたのは明治以降で東京でも明治から昭和初期にかけて中仙道の巣鴨から滝の川にかけて「種子屋通り」と呼ばれるほど種屋が軒を連ね最盛期には20件以上の種子問屋があったというから驚きだ。
現在全国で日本種苗協会の会員は約1.300。畑懐のある静岡県西部地方には12件の種屋がある。普段食べているキャベツや大根も作っている農業者の方々は少なくても種屋から種を買う。種を蒔かなければ芽が出ないわけでそういう意味では、僕たちの生活の根幹を担っている大切な仕事だ。
うちの場合、今は亡くなっている創業者のおじいさんが昭和10年に商いを始めたらしい。今はすべて袋や缶詰めで売られているが子供の頃の種の売り方はみな量り売りで二斗位入る木の箱に種が入っていてそこから一合二合枡で注文に応じて量り売りしていた。
その種がたくさん入った箱の中に手を入れるとひんやり冷たく品種ごとに手を通して伝わってくる情報がそれぞれ違いとても好きだったのを思い出す。
よく叱られたのが「種を混ぜるなよ」!
いけないと言われれば言われるほどやりたくなり見つからないように黒い丸粒のアブラナ科同士を少量混ぜた。品質管理と信用一番の種屋としては今思えば恐ろしいことだ。現在のほうれん草の種は外側の固い皮が取り除かれ丸い形に加工されているが昔はまるで沖縄の星の砂の様な形でトゲトゲしている。とうぜん手を入れるととても痛く握っても痛い。どのように握れば痛くないかなど馬鹿な事をたくさんしていた。
そんな野菜の品種たちは、国内で流通している大根だけでも約600種類もある(日本種苗協会の品種名鑑から)。加工やカット野菜向きの品種や青果市場うけする品種、家庭菜園向き品種、この時期向く品種向かない品種、その地方に向く品種向かない品種、丈夫な品種、弱いけど味は格別な品種、サラダ向き煮物向き、昔からの在来種や固定種から最新の品種などなど、用途によって様々の品種がある。どこの種苗専門店でも昔から味が良く愛されている大根など定番おすすめ品種を持っている。「昔からおすすめの味が良い大根の種ください」と気軽に声をかけてみるのも手だ。種を買う量も少なかったり素人で質問するにも何を聞いていいかわからなかったりと専門店なので家庭菜園の方は入りにくい面もあるかも知れないが、専門店だけにみんな種屋のプロだ。
この間も種屋の会合で、カボチャの話が出た。育種会社の営業マンが浜松の直売所をのぞくと浜松はどのカボチャも若取り(若いうちに収穫する)と感じたそうだ。あれでは味が全くのらない。カボチャの茎が全体コルク化してから収穫しさらに2週間位置いておくと間違いなく甘く深みのある味になる。カボチャの産地では当たり前のことだが以外に知らない。トウモロコシも苗で売られているのが信じられない。他の野菜と違い成長の早いトウモロコシは定植の適期がとても短い、植え遅れると根が鉢の中で回ってしまいその後の生育はおもわしくないその時の障害が収穫まで響く。毎日畑に出向く人なら苗を作って定植してもいいが、トウモロコシは種で蒔くのが一番安心だ。
そんな情報を聞けるのも専門店ならでは、ぜひ種屋をのぞいてもらいたい。
どの種屋も喜んで親切に教えてくれるに違いないし、種屋という職業が存在している所以でもある。
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